hammerkammerの日記

アウトプット用で始めました。文章がめちゃくちゃだったらすみません

ハサミ男 殊能将之

注:ネタバレ含みます
 

[殊能将之]のハサミ男 (講談社文庫)

 
結論から述べると面白かった。
 
まず冒頭が良い。XTCというバンドの「シザーマン」という曲の一節らしいが、
 
チョキ、チョキ、チョキとハサミ男が行く
悪い子たちの遊びをやめさせるんだ
チョキ、チョキ、チョキとハサミ男が行く
きみも彼の名簿に載ってるかもしれないよ
きみも彼の名簿に載ってるかもしれないよ
 
という冒頭で始まる。これだけで、今から何か不吉なことが起こる予感がビンビン伝わってくる。
余談だが、私はシザーマンといえば初代プレステのクロックタワーに出てくるシザーマンの印象が強い。壁から突然出てきたときに恐怖した思い出は今も忘れられない。そんなこともあってか、この冒頭の一節を読んだときにこれから起こるであろうハラハラ感(語彙力無くてすみません)への期待が一気に膨らんだ。
 
読んで期待通り面白かった。特に叙述トリックを使った日高をハサミ男と思わせる誘導とラストの怒涛の畳みかけはすごかった。レビューを見てみるとこの叙述トリックは評価が分かれるところだった。私は素直に「やられたー」と思ったが、納得出来ていない人の気持ちも分からなくもない。というのも、ハサミ男である安永千夏は自分を太っていると思っているらしく、そういう描写もあったが実際には彼女は美人らしいし、そこまでデブというほどのことでもないらしい。ハサミ男は通称であるので女性の可能性もあるわけだが、私は女性が犯人であるとは少しも思ってなかったし、まして第1発見者の安永千夏だとは全く思わなかった。そのポイントがここにあるように思われる。叙述トリックで意図的に誘導されていたとはいえ、太って自己管理が出来ないいわゆるオタクのような人は、男であるという思い込みがあったからだ。もっと言えば、仮にハサミ男が女性であるならばその女性は美人でなければならないという観念が私の中にあったのだと思われる。なぜこのような観念が自分の中に染みついているのかと考えてみれば、そういうものに触れてきたからということになるだろう。ドラマ、漫画、ニュースで流れる犯罪、おそらくこれは私だけに限らず多くの人が持っている観念なのではないだろうか。だから、作者はこれを叙述トリックに用いたのだと思う。
 
また安永千夏は妄想人格者でもう一人「医師」という人格が存在する。「医師」が言うには「医師」という人格が自我でハサミ男として殺人を行っていた人格が「医師」が作り出した妄想人格らしいが、これは本当だろうか。私はこれには懐疑的である。「医師」という人格は年配の男性風な話口調で、本の引用を持ち出して会話するシニカルな性格である。安永千夏の性別は紛れもなく女性であり、年齢も26歳とまだ若い。その彼女の主人格が「医師」のような人格というのは想像し難い。むしろ、困難な事態を対処出来ず、それによって生み出された人格と考える方が合点がいく。それでは、ハサミ男が主人格なのかというとそれも違う気がする。そもそもハサミ男のような人格なら妄想人格を作り出したりしない。「なぜ」を考えず、常に「どうやって」しか考えないハサミ男なら。つまり、安永千夏の主人格は最後の最後に出てきた「医師」にそっくりな人物、おそらく父親と話をしていた「誰か」だと考えられる。もちろん描写されていない可能性もあるが、この線が濃厚であると私は考える。このように終盤一気に謎が解明されていく所がとても面白かった。
 
この作品は映画化されているらしいのでぜひ見てみたい。ただネタバレしない程度にレビューを見てみたところ散々な評価だった。この作品をどう映像化するのか気になったが、どうやら無理だったようだ。たまに映画で「あの映像化不可能と言われた作品がついに実写化!」
という見出しを目にするが、あれは一体どこの誰が不可能と言っているのだろうか。そんなことを身近で言っている人間を見たことがない。そもそも、出来る段階にならないとそんな話をしない気もする。話は逸れたが、そんな散々な評価の映画でもいいから見てみたい。この小説をどんな風に描いているのか、それだけでも見る価値はあると思う。つまり私は駄作であろう映画でも見てみたいほどにこの小説を面白いと感じたのだろう。評価は文句なしの☆5つ。